春祭ジャーナル 2013/02/05
アーティスト・インタビュー
~川本嘉子(ヴィオラ)
昨年、大阪で「バッハ:無伴奏チェロ組曲 全曲演奏会」を開催し、大きな評判となった川本嘉子さん。「東博でバッハ」で再び全曲演奏に取り組む川本さんへバッハについて、また今回の演奏会についてお話を伺いました。

東博でバッハ vol.14 川本嘉子 ~無伴奏チェロ組曲(ヴィオラ版)全曲演奏会■

バッハはエチュードの延長という印象で学生の頃から演奏しなくてはならなかったり、コンクールの課題曲になっていたり、どちらかと言うと緊張を強いられる作曲家でした。「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」をヴィオラで演奏する場合は、5度も違うので技術的にも難しく辛くて苦しいのですが、「無伴奏チェロ組曲」は技術にとらわれず、またそれぞれの曲にダンスのタイトルがついていてヴィオラで演奏していて楽しめる作品。もちろんバッハの作品なので、どうしても緊張は強いられますし気軽には取り上げられません。機会がある度に少しずつ抜粋で演奏してきて、10年ほど経ってようやくまとめて演奏できるようになりました。
コンチェルトやリサイタル、どんな作品においても本番が終わったあとは充実感を得られますが、大阪での全曲演奏会を終えた後は、これまでの音楽人生の中で一番充実する瞬間でした。

どの曲に思い入れがあるとか、1曲1曲切り離して考えるよりも第6番までどう演奏するかということに気持ちが向いています。
演奏順も第1番からではなく、第5番から始まり第6番で終わると決めています。ハ短調で始まる第5番は衝撃的で、悩みや苦しみといった人間臭さを感じます。その人間の苦しみから紆余曲折があって最後は神に近づくような、和声的にも大変美しい第6番に戻る、そんなことを考えています。

お坊さんや牧師さんは毎日お寺や教会という神様の場所にいますが、バッハも神様に近い場所で演奏し音楽を創った人。神様に近い位置にいる代表的な作曲家として考えています。
演奏会後にワイワイと食事へ行ったり、いろいろな人と飲みに行ったりする普段の生活が、「バッハを演奏する」となると静かに過ごす生活に変わります。無理にそうしているのではなく、大勢と一緒にいるライフスタイルに興味がなくなるんです。俳優が役に入り込むのと同じように、バッハを弾いているとオーラを感じてバッハが染み込んでくる。これはほかの作曲家とはぜんぜん違う感覚です。

ソロは、自分自身に全責任がかかってきます。今回の演奏会でもその重要性を感じながら日々を過ごすと思います。またソロだとリハーサルがないので、家にこもって練習しなくてはならない、ということ。日々演奏会が続く中で、ソロの演奏会が近づいてきたら頭を整理して集中していきます。

《バッハの全曲演奏会》と聞くと私も肩が凝ってしまうので(笑)、自分が楽しい気持ちになるよう準備しています。春を音楽で祝うお祭りですし、昼間は花見や散歩や食事を楽しんで、その延長で博物館でのコンサートへと足を運んで頂きたいです。
本当は賑やかな中でBGMとして演奏したい気持ちですが、演奏会なのでそういう訳にはいかない(笑)静かに聴いていても、心の中では楽しんで欲しいと思います。
ぜひ"お気楽"にいらしてください。 そして散歩をするなら歩きやすい靴で!
~出演公演~
ミュージアム・コンサート