HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2012/01/26

ようこそハルサイ〜クラシック音楽入門~
リヒャルト・ワーグナー ~中世のロマンあふれる《タンホイザー》

文・後藤菜穂子(音楽ライター)

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リヒャルト・ワーグナー(1813-83)

 リヒャルト・ワーグナーは生涯、オペラ一筋の作曲家でした。1813年、ドイツのライプツィヒに生まれ、ちょうど来年生誕200年を迎えますが、奇しくも、19世紀のもう一人のオペラの大家ヴェルディも同じ年にイタリアで生まれており、2013年は世界中の歌劇場で2人のアニヴァーサリーが盛大に祝われることでしょう。

 ワーグナーはその作品において、それまでのオペラとは大きく異なるコンセプトを打ち出しました。当時流行していたイタリアのベル・カントのオペラのように歌手の美しい声や技巧を誇示するのでもなく、フランスのグランド・オペラのような舞台のスペクタクルでもなく、オペラにおけるテキスト(歌詞)と音楽の融合を目指し、人間の根源的なテーマを扱った真の音楽的ドラマ、すなわち〈楽劇〉を打ち立てたのです。その革新的な作風は19世紀のオペラ界のみならず、音楽界全体に大きな波紋を起こしました。

 今春「東京・春・音楽祭」で取り上げます《タンホイザー》は1843年、ワーグナーが30歳の時に着手、1845年にドレスデンの宮廷歌劇場で本人の指揮で初演されました。タイトルに「ロマン的オペラ」と掲げられているように、若き作曲家の情熱のほとばしりがひときわ強く感じられる、ロマンティックで豊潤な作品となっています。

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ノイシュヴァンシュタイン城

 オペラのテーマは、官能的な愛と高潔な愛との間で苦悩する主人公タンホイザーの遍歴ですが、ワーグナーはその舞台を中世の騎士の世界に見出しました。19世紀のドイツでは、あらゆる芸術の分野でこうした中世やルネッサンス時代への懐古趣味が流行していました。ワーグナーの最大のパトロンとしても知られるバイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845~86)は、青年の頃から《タンホイザー》や《ローエングリン》に描かれるような中世の騎士の世界に夢中になり、のちに中世の城をイメージしたノイシュヴァンシュタイン城を建てたのでした。城の各部屋にはワーグナーのオペラの場面を描いた絵画が飾られており、また《タンホイザー》の第2幕の「ヴァルトブルクの歌合戦」の舞台である〈歌人の間〉まで造らせたのです。この歌合戦の場面は、オペラの最大の聴きどころのひとつです。

 最後にこのオペラの珠玉のシーンをご紹介します。タンホイザーに最後まで忠実な友人のヴォルフラムが第3幕に歌う「夕星の歌」(speaker.gif[試聴])は、のちのワーグナーのオペラには見られない静かな抒情性をたたえたアリアであり、その余韻はいつまでも心に残ることでしょう。


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