春が訪れ 桜 がひらいて
音楽が始まる 上野の森に
上野は世界でも稀な芸術の空間です。百年を超える長きに渡り、営々と築かれたさまざまな文化施設や教育機関の存在が、上野公園を特別な世界にしています。 江戸時代、花見の名所だった上野の山は、当時、世界でもっとも多くの人が集まった桜の空間でした。花に酔い、酒に酔う人々の饗宴は、庶民の生きる楽しみの 時であり、季節を記憶にとどめる場でした。
6年目を迎える「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2010-」は、桜と音楽で、春を祝う新たな「祭り」の空間をつくろうとするものです。
東京には、神田祭を始め、江戸期から連綿と続くたくさんの祭りがあって、そこに棲む人々や事業を営む組織に支えられ、未だに、祝祭として、人々に開放感と 喜びを与え続けています。一方、明治期に西洋音楽の受容が始まって100年以上の歴史を持つにもかかわらず、クラシック音楽の「祭り」の企画は、神輿を中 心とした「祭り」と違い、伝統や地域にその根を持たないことで、往々として中断となることが多いようです。
「音楽祭は、続けることが、一番大切。どんな世界的な音楽祭だって、なんども中止になりそうな苦しい時期があって、それを乗り越えたから、現在がある。今は世界的となった音楽祭でも、当初は、観客より演奏家のほうが多いと、嘲笑された時代もあった」
そんな言葉で、「東京・春・音楽祭」を励ましてくれたのは、リッカルド・ムーティさんです。「東京のオペラの森」として始まった音楽祭を、次のステップに進めるには、大きな議論がありました。なんどか、止めようかと言う話もありましたが、改めて、初志に戻り、次の10年に向かって、走り出そうと決めたのは、08年の夏でした。
桜の蕾が膨らむ頃に始まり、上野の森を妖艶な花の色で蔽いつくし、花びらが舞う頃に終わる音楽祭は、東京の春を祝うに相応しい新しい形の「祭り」になると思います。
6年目を迎える今回は、ムーティさんの指揮による《カルミナ・ブラーナ》や、海外の音楽関係者の応援もあって、NHK交響楽団とのワーグナー・シリーズの 第1回として《パルジファル》を公演します。また、上野にある様々な文化施設の方々のご協力によって、多様な形でのコンサートを40公演ほど、予定しています。皆様と、春を祝う音楽祭として、江戸期以来の花見の名所である上野の森で、ご一緒できる日を楽しみにしています。
